• 演奏動画:「菊」(A. ロンパネン)

    少し更新が空いてしまいました。皆様いかがお過ごしでしょうか。

    さて、先日フィンランドのタンペレでは、ピアノコンクールが開催されました。第二次予選では、3曲の現代音楽からひとつを選択して演奏することが求められ、その課題曲のうちのひとつが今回ご紹介する作品、アリ・ロンパネンの「菊」です。

     よく聞くと、出だしの部分は以前紹介したことのある「Convolvulus」(昼顔)とそっくりですね。昼顔から菊への変身、といったところですが、雰囲気も構成も全く違うものに仕上がっています。沢山の花びらが集まって丸くなったように、左手の細かな音が絶え間なく周回し、その上に神秘的な右手のメロディーが浮かびます。

    菊と言えば桜と並んで日本の国花であり、皇室の象徴、パスポートの紋章にも使われている、高貴さを象徴する花ですね。(身近なところだとどうしてもお葬式の花を連想してしまいますが、尊さゆえに使われるということで、花自体に死者を弔う意味はないということを、初めて知りました…)

    こちらは、先日いただいた、中秋の名月にちなんだブーケ。真ん丸の菊は、満月そっくりですね。

    ちなみに、偶然か否か、コンクールの舞台に飾られた花の中にも、真っ白な大振りの菊の花がありました。 先日9月25日と26日に、二次予選に出場した参加者のうち4名によって初演されました。

      

  • 演奏動画:「スターシス II」(B. スパーン)

    蒸し暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

    新たな演奏動画を公開しました。

     バルト・スパーンの「スターシス II (原題:Stasis part 2)」です。

    オランダで活躍する作曲家で、ピアノ曲を始め室内楽作品も多く手掛けています。音楽学と歴史を専攻する傍ら、ロックバンドで演奏していたこともあり、作風にはしばしばポップスの要素を感じさせます。

    この曲はピアニスト、ラルフ・ファン・ラートのために書かれた3部作のピアノ曲「Stasis」の第2部にあたります。無限ループにはまったように繰り返されるモチーフが、ソステヌート・ペダルの効果により、宇宙空間を漂うように響きます。

     

  • ピアノ発表会

     

    私が講師を務めさせていただいている、ピアノ教室の発表会で生徒さんから頂いたお花です。ぱっと華やかで、この季節にぴったりの、元気が出る色ですね。

    昨日は教室の発表会でした。昨年に引き続き、感染症対策に気を配りながらの開催でしたので色々大変な面はありましたが、生徒の皆さんの成長を間近で見られるのは大変嬉しいことですね。皆さんそれぞれ、音楽と向き合い楽しんで続けてくれたらと思います。

     

  • 演奏動画: プーランク「エディット・ピアフを讃えて」

    久しぶりに、現代音楽ではない作品の演奏動画です。

    私の大好きな作曲家の一人、フランシス・プーランクの「エディット・ピアフを讃えて(15の即興曲より 第15番)」です。

     プーランクの作品の中でも、比較的よく演奏される曲ではないでしょうか。

    20世紀前半のフランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフの繊細ながら力強い歌声を思わせますこの曲は、メロディーを重視したプーランクならではの名曲ですね。

    ちなみに、実際のエディット・ピアフの歌声はこんな感じです。 

     

  • 演奏動画: 「スノーボールアース」 (A. ロンパネン)

    2019年に、ウィーンの「アルテ・シュミーデ」でリサイタルを行った際に初演した、アリ・ロンパネンの「スノーボールアース」を改めて録音しました。

     難易度、そして複雑さを極めた作品を書くというミッションの元に生まれたこの作品は、和声・アラベスク・連打という3つの要素をベースに発展していきます。スノーボールアースとは、かつてあったとされる、地球表面全体が凍結するほど激しい氷河時代の、凍った地球のこと。まさに想像を絶するような凍てつく寒さや、激しい地吹雪を思い起こさせるような曲想です。

    ここ最近の連日の猛暑日には、ちょうどいい選曲かもしれません。(笑)

    ちなみにこの作品は、私がグラーツの現代音楽科にいたころ、楽譜から音符をできるだけ速く読んで弾く訓練として、レッスンで出された課題でした。しかし、音数の多い曲はある程度覚え込むことなしには弾けないですね…(そして、譜めくりの時間がないことも)。

     

  • コンサート「夏の花」(フィンランド・エスポ―) : ピアノ曲の初演

    6月3日、フィンランドのエスポ―にて、私の作曲したピアノのための小品「Lacerta」と「5拍子のワルツ」が初演されました。

    これまでも時々折に触れて紹介してきた作曲家の友人、アリ・ロンパネン氏はピアニストでもあり、昨年のクリスマスから何度か延期になっていたコンサートがようやく実現したようです。 

      開演前 (© Ari Romppanen)

    夏の花」と題されたプログラムは、フィンランドと日本の作品で組まれ、ロンパネン氏の作品とシベリウス、パルムグレン、三善晃、そして私の曲が演奏されました。

    会場は子供のための文化施設で、自然あふれる外の公園にピアノを設置しての屋外コンサートでした。この日は気持ちよく晴れ、演奏中もずっと鳥がさえずっていたようです。 

    現地でもコロナ禍による規制でなかなか思うようにコンサートが開催できない時期が続いていました。今回も直前まで開催が危ぶまれたようでしたが、久しぶりの演奏会にお客さんも喜んでいたそうです。 

     演奏中のアリ (© Ari Romppanen)

    このような穏やかな雰囲気の中、その場にいらした皆さんに楽しんでいただけたようで、私もとても幸せに思います。

    素敵なプログラムと共に演奏してくれたアリ、そして聴いて下さった皆さんにこの場を借りて深く感謝いたします。

  • 演奏動画: 「バートルブース」(K. ニエミネン)

    もう1曲、動画を公開しました。

    フィンランドのギタリストで作曲家のカイ・ニエミネンの「バートルブース」 です。

    バートルブースとは、フランスの作家ジョルジュ・ペレックの小説「人生使用法」の登場人物。ジグソーパズルに没頭する彼を軸に、アパートの住人の奇想天外な物語が展開されます。全100章、登場人物が1000人を超える長大な小説ですが、ユーモアに溢れる各エピソードがパズルのようにつながっていき、次の展開にいつもわくわくさせられます。

    このピアノ曲も、小説同様ユーモアがちりばめられ、ハーモニーなど少しフランスの香りのする曲です。

     

     

  • 演奏動画: ソナチネ (A. d. ヴァレ=ラッタンツィオ)

    最近、定期的に演奏動画を撮りアップするようになりました。

    以前、ウィーンでお世話になったコロンビアの作曲家、アレハンドロ・デル・ヴァレ=ラッタンツィオの作品を紹介しましたが、この度新たに「ソナチネ」(2020) を公開しました。

    ラテンのリズムと教会旋法的なカラーが特徴の曲です。お楽しみ下さい!

     

     

  • アカデミー・オブ・アーティスティック・シンキング ― レポート

    近年、世界各地で様々な芸術分野もしくは全く異なる分野同士のコラボレーションが盛んだ。目まぐるしい変化、また商業的・物質的になりがちな社会において、芸術の意義への再考、そして新たな道への模索が進んでいる。その中で、2018年から2021年にかけてヘルシンキで行われた、ジャンルの垣根を越え芸術について考察する企画「アカデミー・オブ・アーティスティック・シンキング The Academy of Artistic Thinking」(以下AAT)及びその集大成として行われた公演「キエロット (Kierrot)」について紹介したい。

    AATは、芸術の本質をより哲学的にとらえ、表現の可能性について考察する、3年がかりのプロジェクトである。現地を拠点とするシルコ新サーカスセンターが主催し、国内で最大の芸術大学・シベリウス音楽院や国営放送YLE 、コネ財団との提携のもと実施された。主にパフォーマンスに関わる様々な芸術分野 – 演劇、舞踊、新サーカス、音楽 – において活動する30人ほどのアーティスト(企画の後半ではそのうち12人)が参加した。その中で、ただ一人の作曲家として参加したアリ・ロンパネン氏から、プロジェクトの内容について伺った。

    プログラムは3年間のうち、一週間単位のセッションが合計8回、その後最終公演に向けてのリハーサルが適宜行われた。セッション期間では、参加者たちは7日間共に行動し、国内のフェスティヴァルや劇場で演劇、サーカス、音楽や舞踊など様々な演目を鑑賞した。そして作品の背景にあるテーマや思想、その表現方法についてなど特定の観点から議論をし、ジャンルを超えて共通する表現芸術の本質について掘り下げていったようだ。時々自分たちで小さなパフォーマンスを制作・発表し、また外部から専門家を招いての講演も行われたとのことである。

    セッション期間で得たアイディアをもとに、参加者同士で集大成として作られた8回シリーズの公演が、2021年初めに上演された「キエロット」である。アカデミーの参加メンバーが8つのグループに分かれ、それぞれ「植物」「ジェンダー」「水平線と垂直線」など特定のテーマに基づいた発表がなされた。どのグループの公演も、メンバーによるトークとパフォーマンスの部分から成り、分野の異なるアーティストそれぞれの個性と強みを生かした内容となっていた。コロナ禍で刻々と状況が変化する中、直前までグループ編成や計画の変更を余儀なくされ、最終的に無観客でZoomによるオンライン配信となった。しかしその逆境を逆手に取り、視聴者とのディスカッションや質疑応答など、インタラクティブコーナーを設ける工夫もあり興味深かった。視聴者は大半がフィンランド国内だったが、ドイツやフランス、また私を含め日本など国外からも注目を集めたようだ。

    例えば植物をテーマにしたグループでは、鉢植えの植物がエレベーターに乗ってスタジオに集合する様子をストップモーションのアニメで表現し、さらにサーカスのアーティストが植物になりきり演じていた。特に自然が生活と密接にかかわるフィンランドにおいて、自然界にある植物や樹木、街路樹、または庭や室内にある観葉植物は私たちに物理的・精神的にどのような影響を与えているか、また逆に人間から植物に対してはどうだろうか…といったことをテーマに考えたようだ。ジェンダーのグループでは、性に対する固定観念を取り払った衣装でのダンスやラップ、アクロバット・パフォーマンスによって、既成概念に疑問を投げかけていた。「水平線と平行線」では表現義的な詩の朗読と、バラフォン(西アフリカの木琴)の演奏、250個の透明な風船を散らしたスタジオをバックに、ロープを使った見事なアクロバット・パフォーマンスが披露された。風船は透明性や開放性、ロープは団結や活動的な要素を表現するなど、小道具一つとっても細部にわたり考え抜かれた演出であった。

    音楽をテーマにしたグループでは「調性と無調性」を中心にトークとパフォーマンスが展開された。サウンドデザイナーのペッテリ・ヤランティ氏が魚のぬいぐるみ「ボッレ・フォン・アッフェナ」と共に巧みな話術で司会を務め、先述の作曲家アリ・ロンパネン氏が様々な音楽を例にとりながら、調性音楽と無調音楽の違いや、受ける印象などについてピアノ演奏と共に説明した。さらに先述のジェンダーのグループのパフォーマンスのビデオを用いて、そのBGMを全く違う曲に入れ替え、どのように印象が変化するか視聴者向けにアンケートが取られていた。

    このグループの公演の国内の視聴者には、予め発泡粘土やモザイク、グリッターやボールなどが入ったクラフトキットが郵送されていた。プログラムの後半では、ロンパネン氏の作曲した「昼顔 (Convolvulus)」を聞きながらクラフトキットで自由に造形をし、作ったものをZoomの画面越しに見せ合うという、視聴者も楽しめるコーナーが用意されていた。動物など具体的なものを作る人、うねうねした得体の知れないものを作る人など、同じ音楽を聴いても皆作るものは千差万別で、とても興味深かった。

    ところで、各グループの公演ではそれぞれ「共通のモチーフ」が使われていた。例えばロンパネン氏の「昼顔」は他のグループのパフォーマンスでもBGMとして断片的に使われ、また「水平線と平行線」で使われた詩のテキスト、植物や石、ロープなどの小道具も、モチーフとして複数のグループで共有されていた。この公演シリーズ「キエロット」のタイトルは「回転する」という意味を持つが、その名の通り、各グループを共通のモチーフが回り巡って、橋渡しの役割を果たしていた。

    私が当初想像していたパフォーマンスは、舞台上または画面越しに演技を観客が鑑賞するという、一般的な形式だった。そのため、比較的アーティストのトークやディスカッションが多く、そこに観客を巻き込むスタイルに初めはやや戸惑った。しかしこれはAAT自体が「芸術的思考」について研究し、広めることを目的とした企画であることを考えると十分に納得がいく。深い洞察と哲学的思考に満ちた内容を、こうして創造的な手段で伝えることで、アートをより身近に感じさせると同時に、アートを発信する側の考え、即ち「アーティスティック・シンキング」を共有することに成功したと言える。

    芸術の核となるものは、私たち全ての人間に普遍的な感情や思考である。しかし、その本質的な部分を人々にわかりやすく、かつ表面的にならずに伝えるのは、そう簡単ではないのだろうか。AATの企画はその可能性への挑戦にも感じられた。この企画は来シーズン以降も、若干の変更はあれど再演を予定しているとのこと。さらに、音楽・描画・空中パフォーマンスを合わせたスピンオフ企画の構想も進行中だ。今後もこうした新たな試みが広がってゆくことに期待したい。

    関連リンク

    パフォーマンス(抜粋)、アーティストのインタビューなど(「Kierrot」の文字が入ったプレイリストより視聴可能)
    https://www.youtube.com/channel/UCCzg72QqSp0q5AC2lPdx8Jw/playlists

    アリ・ロンパネン氏による楽曲「昼顔」

    (以下、動画・画像は全てCirko、AATより提供)

  • ヘルシンキの芸術プロジェクト「The Academy of Artistic Thinking」

    街のあちこちで鮮やかなブルーの紫陽花を見かけるようになり、梅雨間近の季節を実感します。

    さて、2月21日のブログ記事で一部紹介しましたヘルシンキの芸術プロジェクト「The Academy of Artistic Thinking」についての記事を公開しました。

    2018年から2021年にかけてヘルシンキで行われた、ジャンルの垣根を越え芸術について考察する企画、そしてその集大成として今年初旬に行われた公演「Kierrot (キエロット)」についてのレポートです。写真や動画、音源も紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
    https://jp.erikotakahashi.com/2021/05/30/aat-report/

    (© AAT)